マジョレル庭園(Jardin Majorelle)は、モロッコ・マラケシュの新市街ゲリズ地区にある庭園です。フランス人画家ジャック・マジョレルが1920〜30年代にかけて造り上げ、鮮烈な「マジョレルブルー」の建物と多種多様な植物が織り成す景観で知られています。1980年にはファッションデザイナーのイヴ・サンローランとパートナーのピエール・ベルジェが庭園を買い取り修復し、現在も国内外から多くの旅行者を集める観光地として保存されています。
歴史的背景
ジャック・マジョレルは1886年、フランス・ナンシーに生まれた画家です。家具デザイナーの父を持ち、当初は建築を学んだのち画家の道へ進みました。1910年頃にはエジプトに渡ってカイロに数年滞在し、その後スペインやイタリア、北アフリカ各地を旅する中でマラケシュに拠点を移します。オリエンタリズム絵画で知られる一方、彼の名を最も広く残したのがこの庭園です。庭園の歴史は1923年、マジョレルがマラケシュ郊外の土地を購入したことに始まります。彼はモロッコの風景や文化に深く魅了され、まずモロッコ様式の住居を構えました。1931年には建築家ポール・シノワールの設計によるキュビズム風のアトリエ兼別荘を新たに建て、以後およそ40年にわたりこの土地を「生きた芸術作品」として育て続けました。世界各地から集めた植物を植え、独自の庭園を作り上げていったのもこの時期です。1962年にマジョレルが没すると庭園は次第に荒廃しましたが、1980年にイヴ・サンローランとピエール・ベルジェがこれを買い取り、大規模な修復を行いました。以降、庭園はサンローランが好んで過ごす場所となり、彼の没後には遺灰の一部がこの地に散骨されています。
建築と特徴
庭園を印象づける最大の要素は、1937年にマジョレル自身が考案し、その名を冠して「マジョレルブルー」と呼ばれるようになった鮮やかなコバルトブルーです。この色は現在も商標として保護されており、庭園各所の建物や装飾に用いられています。敷地面積は約1ヘクタールとコンパクトながら、サボテンをはじめ世界五大陸から集められた300種以上の植物が植えられ、蓮や水連が浮かぶ池、噴水を備えた水盤などが庭園に涼やかな水音を添えています。見どころは次の通りです。
- マジョレルブルーに塗られたアトリエ兼別荘の外観と、青と緑が調和する装飾的なディテール
- サボテンや竹、ブーゲンビリアなど世界各地由来の植物が茂る植物園としての庭園
- 敷地内にある「ピエール・ベルジェ・ベルベル美術館」(マジョレルの旧アトリエを転用)
- イヴ・サンローランの記念碑と、庭園近隣にあるイヴ・サンローラン美術館(2017年開館)
文化的意義
マジョレル庭園は、一人の画家の創作活動が数十年をかけて庭園そのものに結晶化した稀有な例であり、モロッコにおける近代造園と芸術の融合を示す文化財として位置づけられています。イヴ・サンローランとピエール・ベルジェによる買収・修復以降は、ベルベル美術館を併設することでモロッコの先住民族ベルベル人の工芸・文化を紹介する場としての役割も担うようになりました。ヨーロッパの美意識とモロッコの自然・伝統文化が交差する場所として、今日も国際的に高く評価されています。庭園は2010年からピエール・ベルジェ=イヴ・サンローラン財団が所有し、2011年以降はモロッコの非営利団体「フォンダシオン・ジャルダン・マジョレル」が管理を担っています。この財団は庭園の保全に加え、庭師の育成やサボテン・多肉植物の生態管理技術の指導、モロッコ国内の文化・医療・教育分野の諸団体への支援にも取り組んでおり、庭園の存続そのものが地域社会への貢献につながっています。
観光と体験
庭園はマラケシュ新市街の中心部からタクシーなどで手軽にアクセスできます。庭園は年中無休で午前8時から午後6時30分まで開いており、最終入場は午後6時です(併設のベルベル美術館は午前8時30分から午後6時まで)。入園料は大人(外国人観光客)が170ディルハム、ベルベル美術館の見学を加える場合は追加60ディルハムが必要です(モロッコ国民・学生には割引料金があります)。観光シーズンには混雑しやすいため、開園直後の午前中に訪れるのがおすすめです。チケットは公式サイトでのオンライン事前予約が推奨されており、ベルベル美術館やイヴ・サンローラン美術館と合わせて巡ることで、マジョレルとサンローランという二人の芸術家の足跡をより深く感じることができます。
まとめ
マジョレル庭園は、ジャック・マジョレルが築いた植物園にイヴ・サンローランの美意識が重なり合うことで完成した、モロッコを代表する文化観光地です。マジョレルブルーの鮮烈な色彩、多彩な植物、ベルベル文化への視点が一体となったこの庭園は、マラケシュを訪れる際にぜひ立ち寄りたい場所です。



