レコレータ墓地(Recoleta Cemetery)は、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスにある世界的に有名な墓地で、その美しさと歴史的価値、文化的意味から「世界で最も美しい墓地のひとつ」と称されています。ブエノスアイレス市のレコレータ地区という、上品で落ち着いた雰囲気の高級住宅街に位置し、多くの観光客にとって欠かせない訪問スポットとなっています。
この墓地には、政治家、軍人、作家、芸術家、そしてアルゼンチンで最も愛された女性のひとりであるエビータことエバ・ペロンなど、数々の著名人が眠っており、アルゼンチンの歴史そのものが刻まれているといっても過言ではありません。
レコレータ墓地の歴史
レコレータ墓地は1822年に創設され、もともとはフランシスコ会の修道院だった場所に建てられました。アルゼンチン初の公共墓地であり、建設当初は簡素なものでしたが、19世紀末から20世紀初頭にかけての「黄金時代(Belle Époque)」に、富裕層や有力者たちが競うように荘厳で豪華な霊廟(マウソレウム)を建てるようになりました。
これにより、レコレータ墓地はまるで屋外の美術館のような場所へと変貌を遂げ、芸術と建築の粋を集めた空間となったのです。
建築美術としての魅力
墓地には約4800の墓所があり、その多くが彫刻や装飾が施された立派な霊廟となっています。ネオゴシック、アール・デコ、アール・ヌーヴォー、バロックなど、多様な建築様式が混在し、まるで石でできた都市のようです。
一つ一つの墓がまるで小さな礼拝堂や邸宅のようで、アルゼンチンの建築家だけでなく、ヨーロッパから招かれた彫刻家や職人たちによって設計・制作されました。大理石やブロンズ、ステンドグラスを使ったこれらの霊廟は、その豪奢さと芸術性で観る者を圧倒します。
著名人の墓
● エバ・ペロン(Eva Perón)
レコレータ墓地で最も有名な墓のひとつが、アルゼンチンの“国民的英雄”ともいえる**エバ・ペロン(エビータ)**の墓です。彼女は庶民の味方、女性の権利運動の象徴、そして大統領フアン・ペロンの妻として知られています。
その人気ぶりから、彼女の遺体は一時期行方不明となったこともあり、現在の墓所に安置されるまでには複雑な経緯がありました。彼女の墓には今も絶えず花が供えられ、多くの人々が静かに祈りを捧げています。
● ルフィーナ・カンベセレス(Rufina Cambaceres)
美しくも悲劇的な伝説が語り継がれている女性です。19歳で突然亡くなったとされていましたが、実は生き埋めにされていたという噂が残され、彼女の墓にはその悲劇を象徴するような彫刻が立てられています。白い大理石の彼女の像が扉に手をかけている姿は、多くの観光客を惹きつけます。
● 他にも…
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バルトロメ・ミトレ(元大統領・歴史家)
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フアン・マヌエル・デ・ロサス(独裁者として知られた政治家)
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ルイス・フェデリコ・レロワール(ノーベル化学賞受賞者)
など、アルゼンチンの歴史に名を残す人物たちが眠っています。
墓地内での散策
レコレータ墓地は単なる墓地ではなく、「静寂な美術館」「歴史を語る迷路」とも称され、散策するだけで1〜2時間はあっという間です。墓地内には案内図があり、ガイドツアーも開催されています。特にエビータの墓を目指す観光客が多く、彼女の墓の前では常に人が集まって記念撮影をしています。
道は石畳で整備されており、日中は明るく開放感があります。時には猫たちが静かに眠っていたり、日向ぼっこしていたりと、どこか穏やかな空気が流れています。
周辺の観光スポットとグルメ
墓地の隣には「レコレータ文化センター(Centro Cultural Recoleta)」や「国立美術館」、高級ショッピングモールなどもあり、観光の拠点として非常に便利なエリアです。また、墓地の前に広がる公園「Plaza Francia」では週末に手工芸市が開かれ、地元アーティストの作品や土産物が並びます。
さらに、有名な「カフェ・ラ・ビエハ・ルテシア(La Biela)」でコーヒーを楽しみながら、アルゼンチン文化を感じるひとときを過ごすのもおすすめです。
まとめ
レコレータ墓地は、単なる墓地の枠を超えた「生きた文化遺産」です。芸術としての墓石の美しさ、アルゼンチンの歴史を刻む著名人たちの人生、そして静かでありながらも情熱的なストーリーが詰まっています。
ブエノスアイレスに訪れたら、この地を訪れない手はありません。エビータの墓の前で祈りを捧げ、彫刻の細部に目を凝らし、過去と現在が交差するこの特別な空間を、ぜひ心静かに味わってみてください。
レコレータ墓地は、まさに“人生を深く考える場所”であり、芸術と記憶の交差点なのです。